日野市内では、今でも多くの水路をみかけます。日野用水上堰、日野用水下堰、黒川水路、豊田用水、上田用水、新井用水、川北用水、上村用水、平山用水、南平用水、高幡用水、落川用水、向島用水、一の宮用水などです。多摩川、浅川、程久保川から取水していますが、崖線や丘陵地からの湧水も多く流れ込んでいます。黒川水路は唯一、湧水を水源とした水路です。
日野の水路の歴史は古く、10世紀頃のものと思われる水路も発掘されています。日野用水上堰が永禄10年(1567年)に開削されたことが記録としては残されています。
日野の水路は、水田とともに農業用水路として徐々に発展してきました。そこには地形を巧みに利用し、合理的な水の分配システムをつくりだした先人の知恵や工夫、維持管理する共同体としてのしくみがありました。また、農業用水は水田のかんがい用だけでなく、魚や貝なども豊 富にとれ、作物や農具、なべ・鎌などを洗う場所でもあり、暮らしにとても深く関わっていました。そして、子どもたちの泳ぐ場であり、遊び場でした。水車も各所にあり、水音とともに米や麦をつく音を響かせていました。今でも洗い場をあちらこちらで見かけることができますが、ほとんど使われなくなっています。
昭和30年代頃から人口が増え始め、水田は宅地へと変り、道路や歩道の下を流れる水路もあります。昔に比べればずいぶん用水路は減ってしまいました。けれども、まだまだ日野には多くの水路があり、豊かな水の流れがあります。日野は川や台地、丘陵地と自然的地形に恵まれそして、水路という歴史的資産にも恵まれています。この地域の宝物を皆で守り、次の世代に繋いでいきたいものです。
日野市用水路マップ(2008年6月30日発行)より
浅川のふれあい橋近くから取水し、新井、石田、 三沢、百草、落川地区を流れ、程久保川に流入。 比較的日野市内では水田が多く残る地域を流れ る。潤徳小学校裏から新井交差点まで親水路として整備。潤徳水辺の楽校のフィールドとなっ ている。区画整理を経ていないので支線を含め比較的昔ながらの水路が残る。しかし、宅地と宅地の間の水路跡も多い。
日野市用水路マップ(2008年6月30日発行)より
川から水田に水を運ぶことが用水路の本来の役割ですが、まち中に広がるせせらぎの風景は人々の心に潤いも与えてくれます。「用水守」は、そんな景観 を守っていこうと日野市が呼び かけた、市民ボランティアの活動。
「向島用水親水路」を地域に有する南新井自治会は、用水守の活動が盛ん。水車小屋の近くを清掃していた小城三千雄さん にお話を伺うと「無理のない、自分ができる範囲で続けていこうと思っています。地域のためになることもうれしいけど、なにより掃除をするとすっきりして自分の活力にもなりますね」とにっこり。先日はこんな出来事もあったそう。「小学生の女の子が駆けよってきて、『いつもきれいにしてくれてありがとうございます!』と言ったんです。いつも見ていてくれたんですね」。清掃で片付けたゴミや葉っぱは、市の緑と清流課に電話をすると取りにきてくれるそう。市内に暮らすたくさんの用水守さんは、これからも用水の景観を守り続けていきます。